多分すぐ飽きる

多分すぐ飽きます

アイドルを始めてから

 アイドルを始めてから、明るくなったと言われます。例えば、雨。昔の私には面倒なだけな存在でした。でも今は、事務所から聞こえる静かな雨音や、水滴に反射してキラキラと光る夜の景色、水たまりの上を通ってザブン、と小気味よい音を立てる自動車のタイヤ、それに雨上がり、まだ雨の余韻を残した街の空にかかる虹―、そんなささいな、意識しないと忘れてしまいそうな様々なものが楽しみに感じるようになりました。そんな私を見て、「なんで美優さんは楽しそうなの?」と尋ねられたことがあります。
 アイドルを始めてから、よく笑うようになったと言われます。というよりは、何気ない事務所内でのやり取りをはたから聞いていて、何の気なしに発されたであろう言葉が妙にツボにはまって噴き出すことが増えた、というのが正しい表現でしょうか。私自身、会話に混ざることもありますけど、その時でもこういうことが良く起こりました。「美優さん、笑いのツボが浅いね~」とか、「笑い方が面白いね~」と言われることはもはや珍しいことではなくなってきました。
 アイドルを始めてから、眠るのが楽しみになりました。明日の仕事について考えるのもそうですし、事務所にいる面々を想像し、明日はどんなことが待っているのだろうかとか、こんなことを話したいなとか、そんなことを考えていると自然と眠りに落ちることができました。「美優さん、なんでそんなに肌きれいなの?」と訊かれたときは、秘訣は睡眠ですよ、というようにしています。
 アイドルを始めてから、ファンレターというものをいただけるようになりました。どれもまっすぐにこちらへの好意と励ましがつづられていて、読んで恥ずかしいと少し思う反面とてもうれしいし、仕事へのモチベーションにもつながっていると思います。私はファンレターを書いたことはないので、こうして自分の気持ちを素直に綴れるというのはうらやましいです。以前、今度楓さんに書いてみようかしら、と考えて1人でニヤニヤしていたところを怪訝そうに川島さんが見ていて、すごく恥ずかしかったです。

 アイドルに出会わなかったら、私はどうなっていただろうかと考えることがあります。それはもしもの世界の私。きっと、アイドルに出会った私が幸福だから許された想像です。多分不自由することはなかったんだと思います。少なくとも生活面、お金とかにはこれといって困らなかったでしょう。でもこの想像をするといつも、今の生活にあって、もしもの私にはないだろうものの存在に行きつくんです。それは、
「—―私、ですか?」
「話の流れ的に違うにきまってるでしょう」
「うっ」
「まぁでもあながち間違いではないのが痛いですね」
「痛いってなんですか痛いって」
「痛いものは痛いんです」
「美優さん、それはあんまり答えになってないのでは…?」
「もう、とにかく!私が言いたいのはですね楓さん、もしアイドルをしていなかったら、こんなにいろんな感情をもった私はきっと一生かかっても生まれなかっただろう、ということです」
「ほうほう」
 さっきから楓さんは、私の話を優しく聞いてくれている。というのも、来週収録するバラエティ番組で、『アイドル特集!』と題して様々なアイドルに、アイドルになったきっかけやアイドルになってよかったことやその他諸々を尋ねるコーナーがあり、その練習というわけである。私なりに考えてきたものを、楓さんの家でこうして語っているわけだ。
「明るい感情だけでなく暗い感情においてもですね、私、感性が豊かになったんじゃないかって、ちょっとだけ思うんです。以前では全力で笑ったり悲しんだり、そんなことありえませんでした」
「…そうですか。じゃあラスト、『アイドルになる前の私に一言』」
「はい…、あなたは信頼できるプロデューサーと、競い合えるライバル、信頼に値する仲間、そして、高垣楓さんに出会えます、だから一歩踏み出すのを躊躇わないでね、といったところでしょうか」
「そこで個人名がでてくるあたり、私への信頼が伺えて照れますね」
「もちろん冗談です」
「すこ~しだけ、期待したんですけどね、ほんとに、すこ~しだけ」
「でも、楓さんを誰よりも信頼しているのは事実ですよ?」
「ふふっ、ありがとうございます」
「いえいえ」
「それと、美優さんの原稿、とてもよくできていると思います。美優さん自身の性格の良さとか優れた感受性、そういうものがありありと表れていると感じました」
「そ、そうですか…。改めて言われると、て、照れますね」
「ふふっ」
「それで、これで本番も大丈夫、ですかね…?」
「少し長すぎると思います」
「あ…」
「たくさん削りましょうね、、そのA4のプリント、持って喋るわけにはいかないでしょうし」
「いえ、本番までに覚えるつもりでした」
「それはちょっとすごいですね…」
「そうですね、どれくらい削ればよいでしょうか」
「コーナーの尺とか共演者の人数にもよりますけど、とりあえず…」

隣で一緒に考えてくれる女性を、安らいだ目で見る。きっと、あなたも、私を変えてくれた、アイドルと同じくらいかけがえのないものです。という言葉は、大切に胸にしまいこんだ。

優しい人

「あら、美優さん」
「あ、楓さん、いらしてたんですか」
「はい、ちょうど休憩時間でして」
「そうなんですか、私もです」
「…何かありました?」
「…実はですね、先程たまたまスケジュールが被ってたのでフレデリカちゃんとレッスンしてたんですよ」
「はいはい」
「あの子って本当、天才って言葉が似合いますね…」
「あ~あの子、何でも高いレベルでこなせますもんね。私もお仕事でご一緒したことがありますけど、勝手気ままに見えて実はすごい取れ高になってた、みたいなことばっかで驚いたのを覚えてます」
「そうなんです、自由にふるまえるのも結果がついてくるからなんでしょうか…」
「いや、そんなに打算的な子ではないと思いますよ、心底勝手気ままにふるまって結果がついてくるから天才なんだと思います」
「あぁ~、確かにそんな感じがしますね。レッスンのときなんてすごいんですよ、あの子レッスンまではひたすら喋り倒してるんですけど、いざレッスンが始まるとそれはそれはもう訳が分からないステップも一発でオッケーもらってたりして…」
「あれをはたから見てるとしんどいですよね…」
「そうなんです、もう参っちゃって…」

 いつもと変わらない日常。顔を合わせればとりとめのないことを話すような、そんな関係。私と楓さんの距離感は、とても心地よいから好きだ。
「美優さんと楓さんの関係って、すごいわよね」
「「…え?」」
 突然、先刻のやり取りを聞いていた川島さんが声をかけてきた。
「一目で美優さんがへこんでるなんて私、分からなかったわよ」
「そうですか?誰から見てもへこんでたじゃないですか、さっきの」
「え~?そうかしら、いつもと何ら変わりない顔だったわよ」
「そうでしょうか…」
「美優さんも美優さんで、楓ちゃんと喋るときはやけに明るくなるわよね」
「えっ、そうですか…?特に何も考えてなかったんですけど」
「何も考えてなかったんですか、今の会話」
「あっいや、そういうわけではなくてですね」
「ほら、楓ちゃんと喋ると声のトーンが上がるわ」
「えっ、本当ですか、楓さん」
「はい、そうですね」
 思わず顔が赤くなるのが顔の火照りから分かる。
「え、もしや楓さん、以前から気付いて…?」
「ええ、結構前から」
「っっっっ!!!!!」
 耐えられない、たえられない。
「あら、逃げちゃったわ」
 遠くから川島さんの声が聞こえた。





 部屋の外から出て顔と頭を冷ます。川島さんの指摘もそうだが、何より自分でも気づいていなかったテンションの変化を楓さんに気付かれていたのが恥ずかしかった。それもかなり前からというのがさらに。
「…さん…」
 確かに楓さんといるのは楽である。でも、あくまで他の人に対しても同じような雰囲気で話しかけようとしていただけにこのことはかなりクるものがある。
「…ゆ…さん…」
 …私は楓さんのことをどう思っているのだろう?単なる同僚?友達?何か、どれもしっくりこないような気がする。
 つまるところ、私は、楓さんのことを——
「み~ゆ~さん」
「わあっ!」
 突然隣に現れた存在に驚く。
「何ずっと1人で思い詰めてるんですか?さっきから声かけてたのにまるで気付かないんですもの」
「えっ、ずっといたんですか」
「はい、美優さんが部屋を出てからすぐ追いついて、で、ず~っと」
「そ、そうだったんですか…」
「で、何を思い詰めてたんですか」
 川島さんの言う通り、楓さんは最近鋭くなったと感じる。表情を読み取るのが特に。
「…内緒です」
「え~」
「…内緒、です」
「…そうですか」
 楓さんが隣にいる。普段ならなんとも思わないのに、今は妙に緊張している自分がいる。
「美優さん、」
「はい」
「私、川島さんに言われてから考えたんですけど、ちょっとした表情の変化に気付けるのって美優さんだけだと思います」
「えっ」
「ほかの人だとこうはいかないんですよ、きっと、美優さんだからです」
「あの、ちょっと…」
「で、思うんですけど、きっと美優さんは私にとってとく…」
「ちょっと待ってください!」
 思わず遮る。こんなに私が恥かしいことを臆面もなくさらさらと言われてしまってはこちらが困るし、何より、
「あ、あの美優さん?どうかしましたか?」
「…私も、言いたいことがあります」
 私が苦労してたどり着いた結論を、簡単に言われると困る。
「…はい」
 そんな心境を察してか、楓さんは優しい笑顔をこちらに向けてほほ笑む。その笑顔に促されるように、私はとつとつと言葉を発する。
「…私、誰にも等しく仲良くなろうと思ってたんです。だから楓さんに対しても、みんなと同じように接しようとしてて」
「はい」
「でも、楓さんは違ってました。いつも私を気にかけてくれてて、すごく、優しかったんです。だから、それに応えようと、つい、頑張ってて」
「はい」
「ほかの人とは違うんです、楓さんは。ここまで優しい人にあったのは、あなたが初めてかも」
「照れますね、ふふっ」
「それから私、楓さんを他の人とはちょっと違う存在に思うようになったんだと思います。ほかの人達ははっきり同僚って位置づけられるけど、楓さんはそれ以上の何かがあるから、はっきり同僚、で片づけられない気がして」
「そうですね、私も、そう思います」
「だから、私、楓さんのこと、特別な存在に感じています」
 …大した中身はない言葉だったけど、それでも自分は満足だ。少なくとも、楓さんが自分の中でどういう位置にいるのかがよく分かっただけで満足である。
「…何か、悔しいですね」
「えっ?」
「やけに、満足気ですから」
「やっぱり、よくわかるんですね」
「ええ。私も、美優さんのこと、自分にとって特別な存在だと思っていますから。だから、美優さんのことはよくわかりたいと思うようになったんです」
「そうなんですか」
「はい、私、美優さんのこと、大好きなんですよ?」
 言われて耳まで赤くなる。全く、この人はどうしてこうこちらが照れる言葉を言えるのだろう。
「さ、部屋に戻りましょう、美優さん。川島さんが困っているでしょうから」
「困っているでしょうか」
「面白がっているだけかもしれませんね」
ふふっ、と声を揃えてほほ笑む。私は、扉を開ける。

電話のおはなし

「…というわけでですね、電話で聞いている声は実際の声とは違う人の声なんですよ」
「へぇ…すごいですね」
「でしょう、技術の高さを感じます」
「というと、今聞いている楓さんの声は楓さんの声じゃないんですね」
「そうですね、本当の私は電話にでんわ、といった感じでしょうか」
「ちょっと無理がありますね」
「確かに、ふふっ」

 私と楓さんは電話をしている。というのも楓さんが長期間ロケで遠方に発ってしばらくして、
「さみしいです…」
という電話がかかってきたからである。といっても2日後とかだった気がするけれど。とにかくしおらしい楓さんを前に断ることもできず——そもそも断る気はなかったけれども——こうして都合が合う日には夜中に少しだけお話するのである。

「—―ところで楓さん、大丈夫ですか?」
「何がですか?」
「仕事ですよ。大変じゃないんですか?」
「あ~それは大丈夫です。むしろ順調すぎて1日早く終わっちゃいそうですよ」
「えっ、それはすごいですね。流石トップアイドル」
「それは違います、共演者の方がすごいだけ」
「謙遜しないでくださいよ」
といった風にとりとめのない話がつらつらと続き、最後は数十分経ってから楓さんが満足して終わる。しかし今日は少し違っていた。
「あ、もうこんな時間。明日も早いんでしょう?」
「…はい、そうですね」
「どうしました?」
「…もう少し、お話しましょう」
 いつもと声のトーンが違う。すごく明らかにへこんでいる。あの人がへこむのはレアだけどその分厄介なのは経験談である。
「何かありましたか」
 自分に出し得る最高に優しい声で促してみると、楓さんはとつとつと話しだした。集合時間の変更を忘れていて遅刻したこと。それを引きずって一日中調子が良くなかったこと。共演者のフォローがなかったら一日をドブに捨てていたかもしれないと話すころには、半泣きなのでは…?と思うほどであった。
「…というわけなんです…」
「そうでしたか、大変でしたね」
「はい…」
「それにしても本当に珍しいですね、楓さんがミスしたり引きずったりするなんて」
 そうだ。こんなことは本当に珍しい。仮にも彼女はアイドルを始める前はモデルをしていたわけで、芸能界に身を置いている期間は私よりも長い。ミスはしてもそれを引きずることが楓さんにもあるんだなぁと、—―場違いな感情だけれども―より親近感が湧く。
「何がおかしいんですかっ」
と楓さんが弱弱しい声でこちらを攻める。電話越しにこちらのほころんだ顔を見抜かれているのだろうか、こういうところはすごい人だと思う。あと酔ってるなこの人。
「いえ、でもあんまりクヨクヨしててもだめですよ?そもそも楓さん、そんなに引きずるタイプじゃないでしょう」
「それは…」
と何か言いよどむ楓さん。ますますおかしい。あっけらかんとしてサッパリした性格の彼女がここまでしおらしい姿を見せるとは…。いや見てはないけども。まさか本当に今電話をしているのは楓さんに似た誰かだったりして…、
「…美優さん、しばらく電話してくれなかったでしょう」
「…へっ?」
 突然の告白に間の抜けた返事を返してしまった。そしてそれを悔やむ私には構わず、楓さんは語り始める。
「だって美優さん、最近仕事が忙しいからなかなか時間が合わなくて、できてもちょっとだけだったじゃないですか」
「そ、それは仕方ないのでは…」
「私結構こういうの慣れてないんですよ?モデルの時だってロケなんていかなかったし、共演者の方だってとっつきにくいし、癒しと言えばこの電話くらいだったのに」
「……」
「はっきり言ってこのロケしんどいんですよ…」
 割とため込んでいたのか、グダグダと愚痴をこぼし始める楓さん。こういう楓さんも割と新鮮だ。あとこういう状態に陥ってしまった人は救済が難しい。何とか彼女のモチベーションをあげる何かを…
…あ。あった。
「…楓さん」
「はい」
「そのロケ、1日早く終わりそうって言ってましたよね」
「はい」
「私その日、お休みです。ですから本当にその日に帰ってこれたら、遊びにでも行きましょうか」
「…えっ?」
「遊ぶのが嫌でしたらゆっくりするのもいいですし、とにかく1日楓さんにあげましょう」
「……」
 沈黙。そして自分で言ったことを振り返り恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じる。そもそも私なんかといたところで取り立てていいことがあるわけでもないわけだし、かなり調子に乗ってしまった。楓さんもきっと困ってる。きちんとお詫びと訂正を—―
「いいですね!それ!」
「…へっ?」
 また気の抜けた返事をしてしまった。いやそんなことはどうでもよくて、今あの人、いいですね、って言った…?
「いややっぱり私なんかといても…」
「え~、言い出しっぺがそんなこと言うんですか~?もうだめですよ、言い出したのはそっちですから今更訂正はさせません」
「そんな…」
「これは決定事項ですっ、とにかくその日は1日美優さんは私のものですからね!」
 ここまで明るくなるとは思ってなかったが、とりあえず目論み通りうまくいったわけだしまぁ良しとしようか。
「…わかりました、じゃあその方向で。これから電話できるか怪しいですけど、お仕事頑張ってくださいよ」
「はい!頑張ります!」
 最初とは打って変わってこのテンション。とにかく元気になってくれてよかった。
「じゃあ今日はもう遅いですし、早く寝てください」
「えぇ~、もう少しお話したいです」
「明日も遅刻されたら困ります」
「その話を持ち出すのは卑怯です…」
「ふふっ、夜更かしはお肌の敵ですし、今日はもう寝ましょう?」
「…また電話してくださいね?」
「ええ、もちろんです」
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

夜が更ける。月が綺麗に都会の夜を照らしている。明日はきっといい天気になるだろう。

静かに騒がしい夜

「あの、美優…さん?」
 顔が近い。意識しなくても息が顔に触れていることを感じてしまう。
「ちょっと…美優…さん…」
こうして近くで見ると改めて気付くが、この人は本当に綺麗だ。大してメイクをしていないのに綺麗なのは、肌が綺麗で髪が綺麗で目が綺麗でメイクする必要がほとんどないからなんだなぁ、と感心する。
「感心しますけど…、これは、ちょっと」
「…?だめですか?」
「その訊き方はズルいですよ…でも、だめです、こんなこと」
 顔を背ける。
「でも…私はしたいです、だから」
「だからも何もないです…一旦離れて落ち着きましょう、ね?」
「嫌です、楓さんがいいというまで、このままでいますから」
 悪い酔い方だぁ…、と力のない声で嘆く。というのも今の私は、
―—美優さんに、キスをせがまれているのである。

…話は少し前にさかのぼる。仕事終わりにばったり出会ったことから飲みに行くことになったのだが、行きつけの店が満員だったため、私の家で飲もうと提案した。こういうことはよくあるのでさしたる問題ではなかったが、
「何か映画を借りていきましょう」
と言ってしまったのが問題だった。パッケージとタイトルだけ見て、面白そうな映画を何本か借りてきたのだが、これがどれもこれもハードな恋愛映画だったのである。そういうのに耐性のない美優さんは照れ隠しでありえないペースでお酒を煽り、3本映画を見終わったころには机の上には缶、ビンの山が出来上がっていた。そしてとどめになったのは、私の何気ない「キスシーンが濃厚でしたねー」という一言であった。照れる美優さんが面白くて、ついからかってやろうと発したこの言葉に対して、
「そうですね、やりましょうか」
と何かを決意したかのような表情でこちらを向いて、ぼそっと呟いた美優さん。そしてフラフラとこちらに四つん這いで迫ってくるかと思うと、予想以上の力で私を押し倒し、
「キスしてくださいと言ったら、してあげます」
 サキュバスの格好をした美波ちゃんばりの、そんなセリフを口にした。

―—そして、今に至る。かれこれ10数分、私の一方的な防戦が続いている。いじめているつもりだったこちらが、知らぬ間に、しかも多分無意識のうちに、いじめられている。本当に、顔が近い。その気になれば無理やりにでもキスできるものを、そうしないのはきっとこちらの同意を得てからという美優さんのこだわりのようなものなんだろうと、ぼんやり考える。「楓さん、顔、赤いです」
「もうやめましょう、ね?流石に酔い過ぎですよ、そろそろ寝ましょう」
「ダメですっ」
 この調子である。何を言っても通じない感じが彼女の酔いのひどさを物語っている。正直この10数分間で、諦めかけたことが何度あったか分からない。で、でも、ここで負けたら今後にかかわる気がする。それに、私も踏みとどまれない気がする。だって酔ってるし。
「美優さん、本当にやめましょうっ」
 語気を強める。それと同時に美優さんを押しのけ、ようやく正対することができた。
「…どうしてですか?どうして、キスしてくれないんですか?」
 ここまで酔っている美優さんはもしかすると初めてではなかろうか。ここまで恥ずかしいセリフを臆面もなく言う美優さんは初めてである。そしてここまでベロベロな彼女を見ていると、自然と酔いがさめてくる。
「美優さんは酔ってて正しい判断が出来なくなってるんです。第一、女同士ですよ」
「だからなんだっていうんですかぁ…」
 情緒が不安定になっている。はっきり言ってここまで酔ってる美優さんは見たことがない。これ以上はだめだ。
「だからダメです。少なくとも今は良くないです。とにかく今日はもう寝ましょう、ね?」
そういいながら美優さんの後ろに回り込んで半ば強引に彼女をたたせ、寝室に連れて行こうとすると、
「ふふっ、楓さんは優しいですね」
 そう言って振り返った美優さんが、うっとりした目で私の後頭部に手をまわし、

―—ちゅっ。

「…不意打ち、ですか」
「仕方ないからこれで我慢してあげます、おやすみなさい、楓さん」
茫然とする私を通り過ぎ、割としっかりした足取りで寝室へと向かっていった。そして私は、お酒の匂いがする頬を指でなぞり、少し残念だな、なんて思っていたりするのだった。





翌朝、昨晩のことを覚えているか尋ねると、
「えっ、何かやらかしちゃいましたか、私!?」
とかわいらしい答えが返ってきて、私はホッとしているのかがっかりしているのか分からないモヤモヤした心境のまま、朝ご飯をかきこんだ。

とりあえず三作あげたけど辛い

タイトルだけで話が完結してしまいました。

 

 

 

というのもダメっぽいので自分で酷評を下していこうと思います。どこかの誰かも言っていました。自分の書いたものを読まない人は進歩がない。

 

全くその通りだと思います。(読んでないから進歩がない人の顔)

 

今この瞬間にも東京ではクールオンリーが始まろうとしていて、関西のオタクは死にそうです。いいなー東京人。せやけどワイは関西に誇りを持ってるねんで。

 

話を戻します。関西人は余計な話が好きです。

 

 

 

 

 

 

 

『残暑とクール大人s』

 

処女作です。書こうとしたきっかけなんて忘れましたけど、なんか書こうと思って書いたのがこれでした。夏ですしね、まぁ暑すぎて腹が立って書いたんだと思いますが、そんなにいいものではなかったです。

アイドルが仲良く過ごしてるのを書きたくて書きました。このすぐあとに百合を書き始めましたが。

あんまりウケを狙ったようなネタは苦手だなーと感じました。

 

 

 

『美優さんの悩み』

 

やけに前作より伸びて、「あっ気持ちいい」ってなったやつです。まぁ個人的にはまとまりがあっていいので気に入ってはいるんですよ?掴みとか、展開とか、オチとか(自画自賛オタク)。

これはリメイクワンチャンあります。ていうかやりたい。今の自分ならどうするかな、って思うとちょっと楽しいのは僕が変態だからです。

 

 

 

『夕暮れ、静かな事務所にて』

 

これは上手くない(個人的な感想)。なんか書き方とか、だいぶスベってるネタとか、蛇足めいたラストとか、上手くなさが存分に出た悪い見本です。これを叩き台にすると一回叩くだけで爆発してこっちも怪我をします。

リメイクってか訂正をしたい。それほどキツい作品ですねこれ。目を逸らさずに受け止めて、改善点を見つめ続けていこうな……

 

 

 

めっちゃ辛い。ちょっと傷口を撫でただけなのにこのブログすぐ閉ざしたくなってる。なんで60近くも書いてるのよ自分……

 

続きます。また抉っていこうと思います。Mではありません。これは進歩するための礎ですよ、礎。

 

それでは。

 

 

夕暮れ、静かな事務所にて

「お疲れさまでーす」
事務所のドアを開ける。夕方の事務所はみんな仕事が終わって帰ってくるため、いくらか賑やかだろうと思っていたが、
「あれ…?」
意外と静かだった。誰もいないかのような雰囲気すら感じる。まあでも珍しいことでもない。事務所に人がいないということはみんな仕事を頑張っているということだ。そこはやはり、
「プロデューサーさんのおかげですね」
と、自分を顧みず汗水たらして働いているプロデューサーのことを思い出してほほ笑む。とりあえず自分はソファにでも座って川島さんを待とう。今日は彼女と飲みに行く約束をしているのである。仕事が押していて少し遅れる旨のメールをもらったし、事務所でゆっくりしていればそのうち戻ってくるだろう。そう思いながら三船美優はいつも座っているソファに向って、
「あ」
 爆睡している、高垣楓を見つけた。

「寝てる…」
ソファに深く体を預けてすやすやと寝息を立てる高垣楓を見つめながら3分が経とうとしている。それほど今の無防備高垣楓は衝撃的だった。あの楓さんの寝顔だ。そう思うだけでなかなか高揚してくる自分がいるのである。
「しかし、寝相も完璧だ…」
そこはやはり高垣楓、完璧な寝相がそこにあった。足はソファからはみ出すことなくきちんと折りたたまれていて、薄目を開けて寝ているなんてことはもちろんない。一言で言って綺麗、もう一言付け加えるなら女神、である。
「これでしょうもないダジャレさえ言わなければ余計なイメージも崩れずに済むのにな…、いや、でもこのおかげで親しみやすいイメージがついて事務所内でも人気なのかしら…」
ブツブツと呟きながら高垣楓を観察する。見れば見るほど隙のない完璧な美女。見ているこちらが恥ずかしくなるほどだ。確かそんな意味の古文単語があった気がする。美しすぎてこちらが恥ずかしくなるような、そんな単語が…
「って、これは良くないんでしたっけ」
こういうことを言うと楓さんは怒る。自分のことを下げるのは良くない癖だ、と頬を膨らませる彼女はとてもかわいらしいが、それは別として彼女の言っていることはとても刺さる。
 これでも変わったほうだが、私は自分を必要以上に卑下するきらいがある。だからスカウトされてなんとなく事務所に来た時も、周りと比べて自分の醜さに嫌気がさしたものだ。そんな私を変えてくれたのは、プロデューサーと、楓さんだ。プロデューサーはこんな私のために、私が気に入りそうな仕事を根気強く取ってきてくれた。明るい、キラキラした世界があることを教えてくれたし、あなたは決して醜い人ではないと、私がスカウトした人なんだから自信を持ってほしいと、そういってくれた。楓さんは、プロデューサーつながりで出会った。事務所に入った当初は何故か何かと気にかけてくれて、あなたは素敵な女性だと言い続けてくれた。お酒にもよく連れて行ってくれた。あとで、プロデューサーが気をまわして楓さんに私を気にかけてくれと言っていたらしい。お酒のお金もすべてプロデューサー持ちだとも。でもそのことについて言うと、
「何もプロデューサーに言われて仕方なく、ではありませんよ?確かにお酒がタダで飲めるのも魅力的でしたが…ってそういうことではなくてですね、あなたとお酒を飲みながら話していて純粋に楽しかったですし、あなたが魅力的な人だというのがひしひしと伝わってくるんです。あなたはよく自分のことを悪く言いますけど、それって自信がないのもそうですけど、優しいんですよね。あなたが優しくて、少し自信がないから、自分に向いた好意に対してもそんなことないよってこちらが傷つかないように優しく拒絶してるんですよ。美優さんは優しいですね、私はそんなあなたと一緒に仕事ができてとても幸せです。だから、自信を持っていいんですよ。あなたは、私が認めたアイドルなんですから」
 言うなれば私は、プロデューサーに変わるきっかけを、楓さんに変わる後押しをもらったのである。そして今の私がいる。
「…って、つい昔のことなんか」
 眼下の美女を見ながらつぶやく。この人には感謝しかない。だから―—、
「一緒にお仕事できて私は幸せ者です。たくさんの幸せを、ありがとう。これからも、よろしくお願いしますね。…え、えっと、その…。………大好きです」
眠っている高垣楓に言いたいことを言うだけ言い、火照って弾けそうな顔を隠して部屋を出る。そろそろ仕事を終えた川島さんからメールが来ているだろうと期待してケータイを開き、
「—―しまった」
―—楓さんの、寝顔を、撮るのを、忘れた。
1件の新規メールを受信した画面を見つめ、うなだれるのであった。

 

 

そして三船美優が部屋を出るのと同時に、真っ赤に茹で上がった顔でソファから飛び起きる高垣楓の姿があった。じっと見つめられ、起きるタイミングを見失っていたら、
「……大好きです、か」
思わず反芻する。間違いではないと、確認するかのように。
「…参りましたね、いつか、今度は私が」
人のいない、静かな事務所に、澄んだ独り言が響き渡った。

美優さんの悩み

「お酒、飲みにいきましょう」
「…何かありましたか?」
 この人が自分からお酒を誘ってくるときは、必ず何かあった日だ。それも良くないことが。だから断らないようにしているしそもそも断る気はない。一番最近は、雑誌のグラビアでかわいらしい表情がなかなか決まらずたくさんの人に迷惑をかけたことをうじうじと反省していた。この人は酔うとうじうじとひきずるので見ていて面白い。しかし笑ってはいけない。こちらにとってはくだらない悩みも向こうにとっては一大事なのである。彼女の感情を逆なでして起きた悲劇を私は何度も経験している。
「あの…実は…」
今日は何だ。何が来る。どんな悩みが―—
「薫ちゃんに、30歳だと言われてしまって…」
「……………ふはっ」

今日は、耐えられる予感がしない。

「仮にも私もアイドルじゃないですか。だから自分磨きもちゃんとしているつもりなんです。なのに…っ、30歳、なんて…」
 話によると、偶然L・M・B・Gに出くわして、そのときに言われたんだとか。全く子供はえげつないことを言うものだ。三十路ほどデリケートな言葉はないと、あの子たちはいつ気付くのかしら。
「でも薫ちゃんから見た年齢でしょう?小さい子供から見たら私たち大人なんて区別つきませんよ、美優さんだってそういう経験あるでしょう?」
「でも楓さんの年齢は25歳って言ってました」
「うぐぐ…」
 やりとりはずっとこんな調子である。たかが4つでしょう、と言うと30歳というのが問題なんです、と返され、大人っぽいということでは、と言うと老けているということです、と返されてしまう。そうしてズンズンへこんでいき、やけ酒というのもあいまって酒を煽るスピードが速くなる。見ていてすごくすごく面白いが流石にこれ以上飲ませるのも良くないかもしれない。
「もうお酒もその辺にしておいたほうが…」
「これが飲まないでいられますか!」
 美優さんはお酒が入ると少しだけ語気が強くなる。あとろれつもちょっとだけ怪しくなる。
「でも流石に飲み過ぎ…」
「これが飲まないでいられますか!」
 あと同じことを繰り返しだしたらちょっとやばい。
「飲みすぎるともっと老けて見えちゃいますよ?」
「……」
 これが決定打となったか、お酒を飲むペースがゆっくりになった。まだ飲んでるんかい、としゅーこちゃんばりのツッコミがでかけたがそこは我慢だ。第一私、ボケが好きだし。
「…私、やっぱり老けて見えるんでしょうか」
「そんなことはないと思います。私、美優さんがそう見えるの、綺麗だからだと思うんですよ」
「…?」
「綺麗と一口で言っても色々あるでしょう?艶っぽい綺麗さ、清廉な綺麗さ、かわいらしい綺麗さ。私、美優さんはそのどれにでもなれる可能性を秘めていると思います」
「と、いうと…?」
「美優さん、ちょっと前、かわいらしい表情ができないって悩んでたじゃないですか。あれってきっと、美優さんが綺麗に見えちゃうから、周りは純粋にかわいらしいと思えないんじゃないかなって」
「楓さん…」
「薫ちゃんも悪気があったわけじゃありませんよ。美優さん、どうしても大人びてみえちゃいますから。良くも悪くも綺麗な人、と言ったところでしょうか。あの子たちにとっての綺麗は30歳くらいなのかもって思ったらむしろ悪くないでしょう?あれ、そういうのはあんまりよくないですか?」
「…いえ、ありがとうございます。確かに小さな子供の言うことで悩むのはあんまりよろしくなかったと、冷静になって気付きました」
「落ち着いてくれてよかったです。あのままだと私が介抱する展開になりかねませんでした」
「そうですね、たまにはそれも悪くないかなと思いますけど」
「あら、いつも私がつぶれているような言いぐさですね」
 まぁ、そうなんですけど。
「それにしてもあれですね。楓さんの言い方だと、薫ちゃんから見て楓さんは綺麗じゃないってことですよね」
「そういえばそうですね、今の言い方少し傷つきましたけど」
「あ、そういう意味ではなくてですね、楓さんは薫ちゃんから見て可愛い人、ということなのかな、って」
「あ~、それはそれでいいかも、ですね」
そういって焼き鳥に手を伸ばし、
「『皮、いい』、といったところでしょうか」
「訂正です、楓さんは幼稚なだけでした」
「厳しいですね」
楽しい飲み会が、ようやく始まったのである。

 

 

これは余談だが、後日、薫ちゃんに出会ったときに話を訊いたところ、「美優さんって楓さんのおねーさんでしょ?だからそれくらいかなーって思ったの!」と元気な返事が返ってきた。私はへこんだ。