多分すぐ飽きる

多分すぐ飽きます

美優さんの悩み

「お酒、飲みにいきましょう」
「…何かありましたか?」
 この人が自分からお酒を誘ってくるときは、必ず何かあった日だ。それも良くないことが。だから断らないようにしているしそもそも断る気はない。一番最近は、雑誌のグラビアでかわいらしい表情がなかなか決まらずたくさんの人に迷惑をかけたことをうじうじと反省していた。この人は酔うとうじうじとひきずるので見ていて面白い。しかし笑ってはいけない。こちらにとってはくだらない悩みも向こうにとっては一大事なのである。彼女の感情を逆なでして起きた悲劇を私は何度も経験している。
「あの…実は…」
今日は何だ。何が来る。どんな悩みが―—
「薫ちゃんに、30歳だと言われてしまって…」
「……………ふはっ」

今日は、耐えられる予感がしない。

「仮にも私もアイドルじゃないですか。だから自分磨きもちゃんとしているつもりなんです。なのに…っ、30歳、なんて…」
 話によると、偶然L・M・B・Gに出くわして、そのときに言われたんだとか。全く子供はえげつないことを言うものだ。三十路ほどデリケートな言葉はないと、あの子たちはいつ気付くのかしら。
「でも薫ちゃんから見た年齢でしょう?小さい子供から見たら私たち大人なんて区別つきませんよ、美優さんだってそういう経験あるでしょう?」
「でも楓さんの年齢は25歳って言ってました」
「うぐぐ…」
 やりとりはずっとこんな調子である。たかが4つでしょう、と言うと30歳というのが問題なんです、と返され、大人っぽいということでは、と言うと老けているということです、と返されてしまう。そうしてズンズンへこんでいき、やけ酒というのもあいまって酒を煽るスピードが速くなる。見ていてすごくすごく面白いが流石にこれ以上飲ませるのも良くないかもしれない。
「もうお酒もその辺にしておいたほうが…」
「これが飲まないでいられますか!」
 美優さんはお酒が入ると少しだけ語気が強くなる。あとろれつもちょっとだけ怪しくなる。
「でも流石に飲み過ぎ…」
「これが飲まないでいられますか!」
 あと同じことを繰り返しだしたらちょっとやばい。
「飲みすぎるともっと老けて見えちゃいますよ?」
「……」
 これが決定打となったか、お酒を飲むペースがゆっくりになった。まだ飲んでるんかい、としゅーこちゃんばりのツッコミがでかけたがそこは我慢だ。第一私、ボケが好きだし。
「…私、やっぱり老けて見えるんでしょうか」
「そんなことはないと思います。私、美優さんがそう見えるの、綺麗だからだと思うんですよ」
「…?」
「綺麗と一口で言っても色々あるでしょう?艶っぽい綺麗さ、清廉な綺麗さ、かわいらしい綺麗さ。私、美優さんはそのどれにでもなれる可能性を秘めていると思います」
「と、いうと…?」
「美優さん、ちょっと前、かわいらしい表情ができないって悩んでたじゃないですか。あれってきっと、美優さんが綺麗に見えちゃうから、周りは純粋にかわいらしいと思えないんじゃないかなって」
「楓さん…」
「薫ちゃんも悪気があったわけじゃありませんよ。美優さん、どうしても大人びてみえちゃいますから。良くも悪くも綺麗な人、と言ったところでしょうか。あの子たちにとっての綺麗は30歳くらいなのかもって思ったらむしろ悪くないでしょう?あれ、そういうのはあんまりよくないですか?」
「…いえ、ありがとうございます。確かに小さな子供の言うことで悩むのはあんまりよろしくなかったと、冷静になって気付きました」
「落ち着いてくれてよかったです。あのままだと私が介抱する展開になりかねませんでした」
「そうですね、たまにはそれも悪くないかなと思いますけど」
「あら、いつも私がつぶれているような言いぐさですね」
 まぁ、そうなんですけど。
「それにしてもあれですね。楓さんの言い方だと、薫ちゃんから見て楓さんは綺麗じゃないってことですよね」
「そういえばそうですね、今の言い方少し傷つきましたけど」
「あ、そういう意味ではなくてですね、楓さんは薫ちゃんから見て可愛い人、ということなのかな、って」
「あ~、それはそれでいいかも、ですね」
そういって焼き鳥に手を伸ばし、
「『皮、いい』、といったところでしょうか」
「訂正です、楓さんは幼稚なだけでした」
「厳しいですね」
楽しい飲み会が、ようやく始まったのである。

 

 

これは余談だが、後日、薫ちゃんに出会ったときに話を訊いたところ、「美優さんって楓さんのおねーさんでしょ?だからそれくらいかなーって思ったの!」と元気な返事が返ってきた。私はへこんだ。