多分すぐ飽きる

どうせじき飽きるので、適当なことを書いています。

慰め

「お前は──」

 顎ひげを生やした若い男は灰皿にたばこをぐりぐりと押しつけながら言う。「──惚れた女のために死ねるか?」

「死ねるでしょ」隣の金髪の男はビールを飲み干しながら答える。「あ、ビールおかわり」

「本気か?」

「多分この人生でそうなることはないけど、多分そうなったら俺は死ねるよ」

「へぇ、根拠は」

「いい死に場所じゃん」

「死にたいのか?」

「いや死にたくはないけど……」ビールが運ばれてきた。半分くらいまで一息に飲む。「そこで死ななかったらその後ロクな死に方しなさそう」

「そういう考え方もあるのか」男はふんふん頷いて、箱からたばこを引き抜いた。そそくさと火をつける。

「お前は一途なんだな」

「不義理が嫌いなだけだよ」

 焼き鳥の五種盛りが届いて、しばらく二人は黙って焼き鳥を食べた。その間に二人の隣に座っていた老夫婦が席を立って、代わりに若い女二人が座った。

「どうすれば女に好かれるんだろうな」

 顎ひげの男が5本目のたばこに火をつける。「死ぬくらいの気概があれば好かれるか?」

「知らないよ。好きな女に訊けばいいんじゃない」金髪の男は3本目の焼き鳥をむしゃむしゃ食べながら適当に答えた。

「そもそも好きな女とかいないの」

「いないんだよそれが。かと言ってホモでもない」

「このご時世、あんまシャレになんないもんな」

「そうだ。親もいい加減うるさくなりそうだ」

「ふーん」

「お前はいいな、彼女がいて」

 あっという間に吸い終えたたばこを、執拗にぐりぐり押しつける。金髪の男はため息をついて、いつの間にか頼んでいた焼酎を飲み干す。

「もう飽きたよこの話。お見合いでもなんでもしたら」

「ふん。それがいいとも思ってない癖に」手遊びのように、ぐりぐりとたばこを押しつける。

「偏屈だなあ」金髪の男は空のグラスを揺らして中空を見つめる。

「そこまでかったい頭なんだったら、意外と女のために死ねるんじゃないの」

「そうか?」顎ひげの男は勢いよく顔を上げた。

「なんだよ。褒められたかっただけかよ」金髪の男は中空を見つめたままもう一度ため息をついた。

「今日はお前が金払えよ。褒めてやったんだから」

金髪の男の言葉を、顎ひげの男はあからさまに無視した。