手が震えた
友人に「いつタバコ吸ってんの」と訊かれた僕は、正直に「お前とおる時とバイト帰りくらい」と答えて黒い箱からアメスピを取り出して吸った。友人は「まだケチなタバコ吸っとんか」と緑の箱からタバコを取り出した。たまに吸ってるやつだ、銘柄は忘れた。
「だからそんなに吸わんから減らんのやって」と僕は言った。アメスピは終わるまでが長い。一本吸ってる間に他のタバコなら二本くらいは吸える。友人に勧められて買ったけど、ちょっと吸い切るまでが長い。美味いけどね。美味いけど、ちょっと肺がしんどい気もする。
「禁断症状出えへんのか」友人は笑った。
「手とか震えるやろ」
「震えへんよ」
僕はケラケラ笑って、毒の煙を肺に送った。喉がいがらっぽくなった。
それから二日ほど、タバコを吸っていなかった。吸う機会がなかったり、忙しくて吸う間も無かったりと、なんやかんやあって箱すら見ていなかった。
今日、バイト中に手が震えた。ぶるぶると小刻みに振動して、それにつられるように声も震え始めた。9時間も喋り続けてるからかな、と考えたけど、心臓もどくどく言い始めたから、すぐにこれは違うなと思った。疲れとかじゃなくて、禁断症状だ。
でも禁断症状って言うほど僕はタバコは吸ってない。瞬間的に吸う量にしたって、狂ったように吸ってるやつは一瞬で一箱空にするけど、僕はせいぜい同窓会で調子に乗ったときに4.5本吸ったくらいだ。禁断症状が出るにしては弱すぎる。
とすると、これは思い込みか。そういう話を聞いたから、そう思っただけ。まぁ久しぶりに長時間勤務をしたから、その疲れが出てきたんだろう。
バイトが終わって、バイト仲間が飲みに誘ってくれたから居酒屋に行った。流石金曜日、席は混んでいて、辛うじてカウンター席に座れた。隣の席には同じくスーツを着た男が二人。セブンスターなんてダサめのタバコを吸いながら、楽しそうに喋っていた。
バイト仲間との飲みはとても楽しかった。結構疲れていたけど、それがお酒でこんなに吹っ飛ぶとは思わなかった。
気づけば手の震えも止まっていた。あぁやっぱり禁断症状なんてなかったんだ、そう思いながらジョッキを傾けると、視界の端にセブンスターが映った。隣の席のセブンスター。ん? 待てよ……。
……もしかして、手の震えが収まったの、こいつの副流煙のおかげか……?