なぁ夜よ
夜道に吠える。
夜道に吠える。
ちくしょう。
ちくしょう。
俺の声はあっという間に夜道に吸い込まれて消えていって、代わりに「うるさいなあ」って足元の暗闇から声がした。
「猫じゃん」
猫だった。夜に溶け込みそうなくらい真っ黒な猫が、目を光らせてこちらを睨みつけていた。
「猫だよ、何が悪い」
猫が喋った。
「悪いよ。だって猫は喋らない」
「じゃあこれはお前の夢だよ」
猫は吐き捨てるように言った。
「そうか」
俺は納得した。
「夜に大声出すんじゃねえ」
「なんで」
「お前の声は聞いていて気分が悪い」
「なんだよ、別にいいじゃないか。俺だって気分が悪くなきゃこんなことはしないさ」
「お前の都合に人を巻き込むな」
「それに」
「なんだ」
「俺が叫んだところで誰も聞いちゃいないさ」
「んだよ、そういうことか」
猫は妙に敏かった。そして俺の足元に近づくと、ひらりと俺の肩に飛び乗ってきた。
「お、おい」
「一緒に叫んでやるよ、それならいいぜ」
「人を巻き込んだらダメなんじゃなかったのかよ」
「うるせえ、神さまが許してやるって言ってんだよ、さっさと吠えろ」
耳元で猫がやかましく催促するから、仕方なく俺はもう一度吠えてやった。夜道に吸い込まれないように、胸いっぱいに空気を吸い込んで。
ちくしょう。
ちくしょう。
ちくしょう。
ちくしょう。
気付けば猫も一緒に叫んでいて、俺たちは周りの目など気にせず胸のつかえを吐き出し続けた。俺たちの叫び声は風に乗って空を渡り、地球を一周回って大嫌いなあいつの頭蓋骨を粉々に砕いてくれるに違いない。
「おおともよ。この俺様が保証してやる」
肩の上で、猫が得意げにニャーと鳴いた。